今日から『虎視眈眈』公演のホール入り仕込みが始まる。
秋の気配がようやく出てきた今年は、残暑が引っ張った。
今年の秋の気配に、昨年の10月『喰う』アイホール公演を思い出す日々で、喪失感は諌めれない。忘れもしないアイホールでの役者入りゲネプロの日。
福森が検査結果を聞きに行くのでホール入りは少し到着が遅れる、と小泉に聞いていたので、ホールで終わったゲネプロ後にそのままの床ダンスマットの上で私は、丁度黒子に連れて行かれるのが一番最後になって福森と2人い合わせた、ので「病院に行ってたんやって?」と何気ない話題のつもりに聞いた。
すると遠くにいた福森も同じく腹ばいになって近寄り、「それがな、癌やっていうことなんや」とさばさばとあっけらかん、というではないか。この福森の伝え方で、私は随分助けられた。
癌でそれも末期だという医師からの宣告を受けて帰ってきた、という。
仰天する間もなく間髪入れず、観客を向ける公演目前のホールである。出演続行ができるのかどうかを聞く私に、福森は「うん、何とか行けると思う。」と、腹を決めている様子に、ホッとする。
『喰う』は兎に角、盛況に終わった。
しかし、福森との、癌との闘いが始まる。
そして今年の2月4・5日に再びアイホールへ舞い戻り、福森の最後の公演となる『一世一代福森慶之介 又、何処かで』をやることに。そして本当にそれが福森の最期の公演となり、それも絶対に命日は忘れられない、今の惨事に至る東北地震の一年後に当たる今年2012年3月11日に、眠るような穏やかな表情であの世へ旅立って逝った。
今回の『虎視眈眈』は、このことを抜きには有り得ないし、あれ以来劇団態変本公演を打つのは初めてでいいかえれば、福森の居なくなってからの劇団態変の初つ公演となる、ということ。
福森は劇団態変創設メンバーでそう言えば、地方パフォーマンスの1・2回は出演しなかったこともあったかもしれないが、殆んどの本公演での出演は成し遂げて皆勤出演者でもある。
そんな劇団にとっての新作本公演は、やるとしたら生半可では気が済まない。
『虎視眈眈』しかないだろう、という勢いで大いに馬鹿騒ぎをやらないと、と悲しみを抱いたからこその大いなる野望へ向けて福森が思わず悔しがって舞台上に出てくるぐらいにやってやる。
この閉塞し腐りきった日本の時代へ向けた『虎視眈眈』は、焼け糞お祭り騒ぎの馬鹿騒ぎ、は劇団態変の旗揚げの『色は臭へど』と同じ精神が流れている。いや、それよりももっと世界破滅という、最悪シナリオに立たされている末期的状態だ。
そんな時に、我々劇団態変はどんな身体性を宇宙に刻めるのか、がいよいよ勝負となる現在的存在の意味を自らの身体で問い懸ける時がきたのだ。